「ガリガリ君」はなぜ40年以上愛され続けているのか?

「ガリガリ君」の開発秘話や、工場が“見せるメディア”としてブランド価値を高めた事例から、30年以上愛される理由を深掘りします。

こんにちは、メディア集客スペシャリストのまるカリです。

今回は、ガリガリ君の生みの親=鈴木政次さんの講演会に参加して大ヒット商品「ガリガリ君」のブランドをどう育んできたのか学ばせていただきました。

赤城乳業のコーポレートメッセージは「あそびましょ」。その名の通り、アイスドリームメーカーとして常に挑戦し続けてきた歴史があります。皆さんの記憶にも新しいのは、ガリガリ君のナポリタン味や、社員が頭を下げる値上げCMではないでしょうか?

ただ、奇抜な試作やチャレンジだけでなく、他社に先駆けコンビニエンスストアでの販売を行うなど、今では業界でスタンダードになっていることにもいち早く取り組んできた会社です。一見すると、面白いことを次々仕掛けるバズマーケティングが得意な会社と思われがちですが、その裏には「現場」と「顧客」に真摯に向き合い続けてきた地道な積み重ねがあるのです。

今回の講演で得た学びを、一部抜粋してまとめます。ご参加された方も、ぜひ振り返りにお役立てください。

ガリガリ君 誕生秘話:サイダーから生まれた国民的アイス

ガリガリ君は、1980年代に日本に入ってきたファストフード文化を背景に、「ワンハンド(片手)で食べられるアイス」を目指して開発されました。

当時の主力商品はカップアイスの「赤城しぐれ」でしたが、売れば売るほど赤字になる状況でした。そこで「既存の売れ筋フレーバーは絶対に使わない」と決意。自分の業界以外に目を向けたときに出会ったのが、「サイダー」「ラムネ」といった飲料界の永遠の定番商品でした。

そこからインスピレーションを得て、ソーダ味のガリガリ君が誕生。最初のヒットはグレープフルーツ味でしたが、ソーダ味は後に改良され、地球と空の色をイメージして「青色」にすることで定番商品となりました。

鈴木さんご自身が当時「気持ちが大きくなっていって青なんかにしちゃった」と語る姿はとてもチャーミングでしたが、今や「水色」といえばガリガリ君というイメージが定着しているのは本当に素晴らしいことだと思います。

「アイスを削ったときの音“ガリガリ”だけではなぁ…」と感じていた時、親しみやすい“君”を付けるアイデアを出したのは当時の社長だったそうです。

「あそびましょ」というコーポレートメッセージが示す通り、ブレない価値観と一貫性を持ってブランドが作られ、その上で失敗を恐れずに進化し続けているのだと感じました。

 

ガリガリ君がブランドになる「メディア戦略」

今回の講演では、特に「メディア」という軸で印象的だった5つのポイントがありました。

パッケージという「外観」への徹底したこだわり

売上が落ち込んだ際、赤城乳業は女子高生やOLからの辛辣な意見に耳を傾けました。アイスの購買層の6割が女性であることから・・・

「汗臭そう」「歯茎が丸出しで恥ずかしくてレジに持っていけない」「下品」といった声を受けとめ、見た目の印象の重要性を痛感し、パッケージを刷新しました。

パミ100(パッと見て100%内容が伝わる)」というネーミング・デザイン方針を掲げ、顧客層に「世界観」がしっかりと伝わるよう改善した結果、女性顧客層が大きく伸びたそうです。

 

工場を「メディア化」してファンを作る

埼玉県深谷市にある赤城乳業の工場は、ブランドのファンになってもらうための「見せる工場」として設計されています。工場見学を通して、顧客は製品ができるまでの過程を間近で体感し、ブランドへの愛着を深めることができます。

当時、「見える化」された製造ラインに先に食いついたのは、テレビでした。凍ったガリガリ君がラッピングされるまで2m空中を浮遊する様子を下から煽りで撮影し空飛ぶアイスという画が全国に映し出されました。結果、売上は前年比20%アップ。

食品業界では“工場は見せない”のが常識でしたが、「見せる=信頼につながる」という逆転の発想が、顧客との距離をぐっと縮めました。

 

「打ち上げ花火」は「基盤」ができてから

ガリガリ君といえば謎味とSNSでも話題になる様々な種類が過去商品開発されました。

ガリガリ君リッチ・コーンポタージュ味は大ヒットを記録しましたが、続くナポリタン味は売上としては大失敗に終わりました。

しかし、鈴木さんは「打ち上げ花火のように注目を集める」ことに価値があったと語ります。

話題作りや注目を集めるような奇抜な施策は、集客の基盤がしっかりしていたり、定番ブランドが成功している状態があってこそ加速します。PDCAを繰り返し、効果を計測しながら失敗も含めて日々事業が成長していった様子が目に浮かびました。

 

「人」がメディアになるという本質

顧客の口コミは、何よりも強力なメディアです。中学生の口コミがきっかけで売上が伸びたというエピソードも紹介されました。そして、「赤城乳業のあの社長だから間違いない」と言われるような、企業トップや社員一人ひとりが「人としての信頼」を築くことの重要性も強調されていました。

ファンと共に成長する・・・。

30年以上も愛されていると、子どもの頃にガリガリ君を食べていた人も大人になります。そうした「ガリガリ君を卒業してしまう」人たちに向けて作られたのが「ガリガリ君リッチ」でした。ファンのための新作が大ヒット。ファンと共にブランドも育っていくという、まさに優れたマーケティング戦略でした。

 

組織と人材育成:ブランドは「人」が創る

講演全体を通して強く感じたのは、「人」の重要性です。ガリガリ君のような大ヒット商品をうむためには当たり前ですが、組織で働く人が要です!

愛の反対は無関心。人に関心を持てない人は組織には不要。」という言葉が印象的でした。

赤城乳業では、業務の見える化、ボトムアップ活動、360度評価、声掛け活動、そして全員参加の取り組みが行われています。ワンフロアぶち抜きのオフィスで風通しの良い環境を作り、社員同士のコミュニケーションを活発にしています。

また、チャレンジを推奨するということは、失敗を受け入れる「器」を持つということ。それは単純なメンタルの話ではなく、失敗を受け入れる仕組み作りにも力を入れていたそうです。(鈴木さんがいた時のエピソードです)

仕事を成功させる5つのポイント

鈴木さんは、仕事を成功させるためのポイントを5つ挙げられました。

  1. 基本の徹底と変化への対応:常に基礎を大切にしつつ、時代に合わせて柔軟に変化する。
  2. 自分のために仕事をしよう:それが結果的に会社の成長につながる。
  3. 人前で夢を語れる上司:自ら逃げ道をなくすことで、より強くなる。
  4. 報告・連絡・相談を徹底する:ヒューマンエラーを防ぎ、スムーズな連携を図る。
  5. 情報が集まる自分になる:情報を得るためには、情報をもたらしてくれる人を大切にする姿勢が不可欠。

経営者であれば「夢を語ること」と「税金を納めること」、社員には「問題発見能力と解決能力」が求められると語られました。

「失敗を許容できる組織づくり」こそが、長く続くブランドを支える根幹にあるのです。

感想

講演では難しいマーケティング用語は一切出てきませんでした。

  • お客さんが何を求めているか?
  • 社員と組織が大事
  • 口コミが生まれるための体験
  • 長く続けること
  • 失敗を受け入れる器

といった、シンプルながらもブランド作りの本質的な要素を、とても分かりやすい言葉で伝えてくださいました。講演も質疑応答もあっという間に時間が過ぎていきました。

お話しされる姿も、質問を受ける姿も非常にフランクで、優しくて、お人柄が凄く現れていました。

ブランドになるには長く続けること というフレーズが一番印象に残りました。

 

私が質問させてもらった内容で「社員教育に通常の3倍ほど金額をかけていると聞きましたが、どんな教育をされているのですか?」という質問への回答です。

鈴木氏「勉強するような研修もありますが、劇団四季のライオンキングを見に行ったり、大阪の良いホテルに泊まってみて何を感じたかシェアしたりと、一見意味のないように思えるかもしれませんが、こういう体験も含め他社よりも多いと思います。」

鈴木さん自身も他業界からインスピレーションを得た経験があるとおっしゃっていたので、社員にも様々な体験を通して、チャレンジやアイデアが生まれるような環境作りをしているのだなと感銘を受けました。

鈴木氏「何せ人が大事です、かけた分だけ返ってきますから。」

この言葉に、赤城乳業のブランドを支える根幹が凝縮されていると感じました。社員を大切にしているからこそ、モチベーションが高く、それがブランドの力になっているのでしょう。

講演を開催くださったKATARI(講演依頼.com│株式会社ぺルソン)の皆様と鈴木政次さんに、心より感謝申し上げます。